zebraexの遍歴

読むかどうかはともかくとして

さまよえる社員

生家で寝ていると、外から耳をつんざくジェットエンジンの音が聞こえる。慌てて窓の外を見ると、曇り空の夜空に低空飛行する機影が見え、少しして、爆発音。山のほうが一瞬明るく照らされる。
墜落したのだ、と私は思って、そのことを家族に伝えまわる。

飛行機は去年の年末から何らかの理由で着陸ができなくなっており、もう半年間も日本上空を飛び続けていたものだった。乗員は3名で、同じ会社の社員だった。
彼らは交代で操縦桿を握り機を飛ばし続けてきたが、ここに至って力尽きた、ということのようだ。

友人と共に墜落現場に向かう。現場は埼玉の山奥であり、電車とバスを乗り継いでいくのだが、途中機材を運ぶトラックと合流し、荷台に載せてもらう。

しかし、半年もあって、当局は飛行機を着陸させる方法を思いつかなかったものだろうか、と私は思う。むしろずっと放置していたのではないか、と憤るが、その実、私も年末にこのニュースを聞いて以来、飛行機のことはすっかり忘れていたのだった。

飛行機の3名は、操縦のできる上司と語学に堪能な部下、そしてその恋人だった。追悼番組で、操縦していない時は、ビデオ通話で地上の家族と連絡を取っていたことを知る。おそらくこの中では、上司が一番孤独だっただろう、と私は思い当たる。

埼玉の商店街につくと、ちょうど祭りの最中であり、私はお供え物の鍵を買う、キーホルダーに古びた鍵がついていて、それぞれ一つがこれから生まれてくる娘を表すのだった。
茶店の女主人が、私が3つも鍵をもらってきたことをからかう。

公園に着くと、警官がいて、私の友人と親しげに話している。彼は無線でパトカーと連絡をしている。もうすぐバスで遺族がやってくるそうだ。
私は、この公園のすぐ近くに死んだ乗員の会社があることに気づく。墜落場所は選ばれたのかもしれない。そしてもしそうなら、意図してここに墜落させたのはおそらく上司だろう。と私は確信するのだった。