zebraexの遍歴

読むかどうかはともかくとして

竜の姉妹

部活のOB会があるが、何を着ていけばいいのかわからなくなって、何故か中学の学ランを着ようと思ったのだけど、詰め襟が閉められなくなっていたので、ひどく困ってしまった。

学ランを羽織って、会場に行くと、先輩たちが立ち話をしていて、私を見ると皆、笑顔で声をかけてくれる。先輩の顔を見て安心する気持ちが、とても懐かしく思えて幸福な気分になるが、先輩が私をさしおいて他の人と話すのを見ると、少し嫉妬してしまうのだった。

整列して会長の話をみんなで聞く。母校のプールに改修が必要で寄付を募るという。
中年に差し掛かった先輩たちの社会的地位を考えると、わりとすぐに集まるのではないか、と思った。

会場の外に出て、煙草を吸う。ちらほら見知った後輩が談笑しているのを遠くで眺めていると嬉しい気分になった。
ふと後ろから声をかけられて振り返ると、赤い髪をした女の子がいて、何故あなたがここにいるのか、私達にしたことをわかっているのか、と、ひどく怒っている。
わけがわからず、君が誰だかわからないのだけど。と素直に答えた。

女の子が、顔を真っ赤にして、自分は竜だ、と憤然と言う。
学校に行かなくなった私が、ほったらかにしてしまった竜の姉妹の姉だという。
大きく息を吐いて、あんなに小さかった竜がこんなに立派になったんだね、と言った。随分と美しくなったものだ。
彼女は、私が誤魔化したと思ったのか、ひどく冷たい視線で私を睨みつけて、呆れて去ってしまう。

歓迎されないとわかったので、会場から立ち去ることにする。それでも帰る気にはなれずに、駅のベンチに座りこんだ。
やがて帰路についたOB会の一団が駅にやってきた頃になって、上着を会場に忘れたことに気づく。

飛ぶように会場への道を走る私は、この道を通うのを辞めたのは、何かの奴隷であることを辞めた証なのだ、と感じる。
自分で思いついたこの感傷的な文章に、自分で涙が出そうになる。

会場にはまだ幾人かが残っていて、私を待っていてくれる。遠くで誰かの結婚式が行われている様子だった。

上着を探しながら、もう一度、あの竜に会いたいものだ、と思う。たとえ嫌われていても、可愛い後輩には違いなかったからだった。


2018-01-01